2012年02月23日

童話(?) 『摂氏二千度のゆりかご』

 おはようございます!

 まずは先日の夢路進捗につき、

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「夢路固有シナリオ2箱目の <1102行>から<1133行>まで
の、リライト&それに伴っての基礎スクリプトの打ち直しを完了」

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というものにとどまりましたこと、ご報告申し上げます。


 「何故、そんな低進捗か」と申しますと、

『一箱目に戻って、あれこれを修正しなおしていた』

からでございます。


 ただ、そうしていてフ、と、

『書き進まなくちゃ』

と感じたりもいたしました。


 私は、細部を磨きこむのが好きなのですが、
けれどもしかし、“細部にとっての幸せ”は、

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【摂氏二千度のゆりかご】 進行豹


 ネジくんは、きれいにまがったネジでした。
 
 ネジくんを作ってくれたのは、おじいさんです。

 おじいさんのお客さんたちは、ネジくんをみると眼をまるくします。

「これは、すばらしいネジですね!」

「なんと特殊なネジなのでしょう!」

「どんな用途にもちいられるのですか?」

 そんな言葉におじいさんは、いつもニコニコと、ただ笑顔だけを返します。 

 そんな毎日をすごしながら、おじいさんはいつでもネジくんををピカピカに磨き上げてくれます。

 ネジくんは、とても幸せです。


 けれど。

 自分にくらべて、おじいさんの作る他のネジたちは、なんてかわいそうなのでしょう!

 作られる端からどんどん、売られていきます。

 油でべったり汚れた手袋に無造作につかまれ、一山いくらで持っていかれてしまいます。

(ああ、なんてかわいそうな連中なんだ)

 その光景を目にするたびにネジくんは感じ、そして同時に、ひそかな優越を覚えるのです。

(僕は、あんなネジにうまれなくてよかった!)



 秋になります。

 いつものようにネジくんを磨き上げるおじいさんの手が、フととまります。

「これで、良し」

 おじいさんは言い、電話をかけます。

 すぐに男が飛んできます。

 見知らぬ男。

 いままでのおじいさんのお客さんの誰よりも油にまみれた手袋をした。
 そうして誰よりも ―― 今まで一度も見たことが無いほどに輝く目をした男です。

「ああ、コイツですか!」

 男は、ネジくんをつまみあげます。

 他のネジたちと同じように、ごく無造作に。

 けれども、決して落とさぬようにしっかりと。

「お待たせしてすみませんね。ですが、ようやく要求精度に達しましたよ」

「ありがとうございます!」

 (えっ!!!?)

 男は、ネジくんを手に持ったまま部屋を出ます。

 おじいさんは、止めようともしません。

 閉ざされていくドアの向こう、おじいさんが別のネジを磨く姿をかいまみて、
ネジくんの心も閉じて行きます。

(ああ……なんだ。僕は、特別なんかじゃなかった)

 男は、機械にネジくんを埋め込みます。

 すぐに、機械が動きだします。

(僕も、ネジの一本なんだ。他のと全然、かわらないんだ)

 ネジくんの全身に油が容赦なくまとわりつきます。
 四方から押し寄せる圧が、ネジくんの体を痛めつけます。

 引き裂かれそうな、いっそ引きちぎられた方がマシなほどの苦しみ。

 けど、おじいさんが磨きに磨いたその体は、
要求精度を満たした体は、もちろん耐えてしまうのです。

(僕は……こんな目にあうために産まれてきたのか)

「ありがと」

「!!!?」

 完全に閉ざされようとしたネジくんの心の隙間に、幼い声がとどきます。

「ありがと、すごくおいしい。あったかい」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます」
「これで、家族を飢えさせないですみます」

 幼い声だけではありません。大人の声も。老人の声も。
  
 ネジくんがその一部となった機械の前に行列している人たちの声です。

「この機械があればもう大丈夫。誰もにあたたかな食事がいきわたりますよ」

 輝く目の男の眼が、いっそうに輝きます。

 行列するひとが絶えることはなく、
 感謝の言葉は日が経つにつれ減ってきました。

 完全な精度と強度をもったネジくんも、やがて、徐々に痛んできます。

 油は体の一部となり。
 ゆっくりと、ですが確実に、その体さえひしゃげていきます。

(ああ、そうだ。本当に、僕も他のネジたちと一緒なんだ)

 ネジたちは、悪くなりきる前に交換されていきます。

 ネジくんだって、その例外ではないでしょう。

(使いつぶされ、交換されて、そのあとにどうなるのかわからない。けど――)


 冬が過ぎ。春。

 ネジくんは、とても幸せです。

 おじいさんに磨いてもらったときよりずっと、
 「ありがと」の声を初めて聞いたときよりずっと。


 なぜならば。

 機械に行列する人が、どんどん減ってきているからです。
 機械の前をとおりすぎる人たちが、ふらつかず、みんなしっかり歩いているからです。

 そして彼らが機械をみあげるその視線が――とても、とても、優しいからです。


(僕は、この人たちの役にたったんだ)


 機械に感謝する人はいます。

 輝く眼の男に感謝する人もいます。


(僕は、この人たちを幸せにできたんだ)


 けれど、ネジくんのことを見る人はいません。

 ネジくんに感謝してくれる人はいません。

 それでも、ネジくんは幸せです。


(こうするために……僕は産まれてこれたんだ)



 やがて。
 機械の前に行列する人はいなくなり。

 飢える人はもう一人もいなくなり。 

 最後まで働きつづけたネジくんは、機械とともに、他の無数のネジたちとともに、
溶鉱炉の中に投げ込まれます。

 焼かれて、溶けて。
 かつてネジくんだった意識は、他のネジたちと、機械とひとつに、溶けあいます。

 そしてネジくんは知るのです。

 自分が少しも、他のネジたちと、機械と、
本当に、ほんの少しもかわらなかったのだということを。

(ああ、楽しかった)

 ネジくんは、ネジくんたちは、思います。

(次は、どんなモノになるのかな? どんな風に、人の幸せを手伝えるのかな??)

 摂氏二千度のゆりかごの中。 
 
 ネジくんは、ネジくんたちは、わずかにまどろみ―― 



 そして、
 再び目覚めるのです。





<おしまい> 


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――細部にとっての幸せは、まぁ、そんな感じなのではないかと思いましたので。

 ので、私は、書き進み。

『錬電術師の全体』をきっちり書きあげて、

「ピカピカの部分」ではなく
「単なる一部」として、ディテールを、エピソードを、使い倒してあげたく思います!!


 で。

 上記もその一種であろう「短編」の練習企画、



『合同短編練習企画 短編十二ヶ月』



の方は「資料が届いた!」ので、今日からリライトの方に鋭意取り掛かります!

 こちらの方も、かなり良いリライトをさせていただけるのではないかと私強く思っておりますので!

 どうぞ、その仕上がりの方、ご期待いただけますととても嬉しく存じます!!



 本日の御報告事項は以上までとなるかと存じます。

 ともかくも、焦らず急いで丁寧に手と心と頭とを動かしまして、
各種作劇、制作、執筆と重ねていきたく存じます。

 今日もいちにちがんばります!

 そして、みなさまの本日がたくさんの笑顔と安心と安全とあたたかさとに満ちたものとなられますこと、願います。

 おたがい、よりよい今日をすごしましょーです!!
posted by 進行豹 at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 製作日誌