(特に新人声優さんやノベルゲーム台本になれてない声優さん向けの)
シナリオライター目線での
『台本のこういう点を意識してもらえると台詞の解釈違い減るかもガイド』」
v100 2018/03/21 進行豹
■はじめに■
はじめまして、進行豹と申す者です。
『まいてつ』『ものべの』が代表作の、ゲームシナリオライターです。
幸いなことに、素晴らしい演者さん、スタジオさん(レコーディングディレクター)のご収録に、数多く立ち会わさせていただいております。
そうした機会の中で、いろいろな学び、気づきを得させていただいたことから、
『この辺の知識を整頓すれば、これから声優の仕事を目指す、あるはノベルゲーム台本になれていない声優さんや声優さんのたまごさんの、なにかの助けになるのではないか』
と思い至るようになりました。
■このテキストの使い方■
まずは、『台本の読み方説明要台本』をご確認ください。
http://hexaquarker.com/setumei_daihon.pdf
あなたには、
・タリア(13w)をお願いします
・物語の冒頭部とのことです。キャラ設定などは来てないです
――というお話とともに上記台本がわたされたものとします。
その前提のうえで、普段されているのとおなじように、
台本チェック、収録準備をすすめてみてください。
そうして
t_001
【タリア】
「はぁっ――はぁっ――フィニ、ア――いい、からっ」
を、できれば録音して、読んでみてください。
■注記■
以下、
「演劇論などは勉強したことがない一シナリオライターが、
『自分の台本は、こう読んでいただけたら誤読や解釈違いが少なくなるかもしれない』
という観点のみから書きます、上記台本の読み方ガイドとなります。
もちろんそれが正解ではありませんし、
現場やクライアントさんによって求めるものも違うものかと想像します。
ので、現場によっては、以下に書くことは百害あって一利なし――となってしまうかもしれません。
■読み始め〜最初にチェクしてほしいこと■
台本を、まずは最初から最後までざらっと読み通していただけますと嬉しいです。
そうしたら、各項目のチェックを進めていただくこととなるかと思います。
その際、一番最初に「自分の台詞」をチェックされるケースがおおいのではないかと思います。
けれどシナリオライター(というかわたくし)としては、その前に、
『場所、時間、シチュエーション、キャラクター同士の距離感』
『シーン内での、その移り変わり』を、チェックしてほしいかと思います。
説明用台本を、見直してみてください。
冒頭にはこうあります。
///
;森の中。霧雨。夕暮れ前。
;少女視点
;SE 森の中を走る足音
///
つまり、ここでは少女が登場します。
少女は、なんらかの理由ではしっています。
そのあとの一連の台詞のやりとりで、
少女=タリア
妹=フィニア
兵隊さん
の3キャラがでてくることがわかります。
この3キャラの位置関係はまだわかりません。
位置関係だけを読み解くことを意識して読み進めると――
///
;SE 銃声。直近。ピストル
(パンっ!パンっ!パンッ!)
【兵隊さん】
「悪ぃな、チビちゃん。おれの抱っこはここまでだ」
【フィニア】
「おにいちゃ」
【兵隊さん】
「早くいけっ!!お前、姉さんなんだろうっ!!」
t_005
【タリア】
「――っ!はいっ!!!」
しゃがみこむ。
いつもみたいに背中を向ければ、すぐにしがみついてくる
///
ここで位置関係がようやっと明らかになります。
☆シーン冒頭では
、
『兵隊さんがフィニアをおんぶしていた』
=フィニアと兵隊さんの距離は近い
『タリアは、そのふたりほどには近くなかった』
☆兵隊さんがフィニアをおんぶからおろしてからは
『フィニアを、タリアがおんぶすることになった』
=フィニアとタリアの距離が近づいた
ことがわかります。
その直後
///
【兵隊さん】
「ここは任せろ!いけっ!!」
4
t_006
【タリア】
「ありがとうございます!兵隊さん――町で!町で待ってますっ!」
;SE 駆け出す足音
///
となり、
『兵隊さんと、タリア+フィニアの距離はどんどん離れていく』
ことがわかります。
以下も同様に、キャラクター同士の距離感をチェックしてみてください。
この、「キャラクタ−同士の距離感と、その変化のこと」を、ここでは
『環境』と呼称します。
■ 次にチェックしてほしいこと ■
次にチェックしてほしいのは、
「キャラクターの行動と、それをとりまく描写」です。
冒頭からもう一度みなおし、タリアの行動をおってみましょう。
///
;SE 森の中を走る足音
t_000
【少女/タリア】
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
【妹/フィニア】
「おねぇちゃ――ひつじしゃっ――」
【兵隊さん】
「羊のことは諦めろっ!!
今は走れっ!走るんだっ!!」
――苦しい。苦しい。息が苦しい。
けど、ほっとする。
羊、諦めるしかないんだと、兵隊さんが教えてくれた。
わたしに、フィニアに。
///
ここからは
・一同がなにかから逃げていること
・フィニアは羊を気にして、おそらく戻りたがってること
・兵隊はそれを禁じていること(=戻ればおそらく、極めて危険なこと)
が読み取れます。
そこにつづく
///
【兵隊さん】
「おれも元々牧童だった。だからわかる!けどっ―― 死んじまったら、明日の飯の心配さえもできなくなる!」
や
走れない、けど――フィニアを――安心―― 安心っ!させて、あげなく、ちゃっ――
///
から、
「タニア・フィニアは迷い羊を探していて、兵隊さんにみつかったなり、保護されたなりしたらしいこと」
「生活の糧である羊をあきらめざるを得ないほど、危険は切迫して重要なものであること」
が読み取れます。
そうして、ライフルの銃声が響き、そこが戦場なり紛争地帯なり、武装強盗なりがでてくる、
極めて危険な地域であることがわかります。
後半の一連の描写からは、兵隊さんが姉妹を助けるために踏みとどまって応戦したこと、
兵隊さんの武装はピストルしかなく、ゆえに彼は戦闘態勢にはなかったこと、なども読み取れるかと思います。
こうした描写をおっていけば、「キャラクタ−の台詞」は、環境と行動との結果として生まれてくるもの――
必然的に導きだされるものであることがおわかりいただけるかと思います。
「行動+環境=台詞」 という数式がなりたつとして。
しかし、
『逃亡 + 敵対者からの銃撃 = ここは俺に任せろ』
になるケースも
『逃亡 + 敵対者からの銃撃 = 助けてくれ! 見逃してくれ!!』
になるケースもでてきます。
その両者をへだてるものが、『こころの動き』であり、
この『こころの動き』を、台詞の奥からさらに深く読み取るためには、
もうひとつの手がかりを必要とします。
■ 第三のてがかり =前の台詞と後の台詞 ■
さて、ここで冒頭に読んでもらった
(そして録音してもらったかもしれない)
t_001
【タリア】
「はぁっ――はぁっ――フィニ、ア――いい、からっ」
にもどりましょう。
『羊を探していて、けれどあきらめた』
『兵隊さんがあきらめさせてくれた。タリアはそれに感謝している』
『なにものかから逃げ続け、息を切らしている』
という環境下。
タリアに、この台詞をいわせた『行動』は、
『そこにつながる、フィニアの台詞です。
まずはそれをチェックしてみましょう。
///
【フィニア】
「タリアおねえちゃん」
///
これだけではなにやらさっぱりです。
ので、その前にもどり、
『フィニアが、どんな理由で、どんなトーンの「タリアおねえちゃん」をいったのか』
を考えてみましょう。
///
【兵隊さん】
「おれも元々牧童だった。だからわかる!けどっ―― 死んじまったら、明日の飯の心配さえもできなくなる!」
///
フィニアは羊を探していました。
羊をいまだ、危険な状態にもかかわらず、あきらめきれていません。
にもかかわらず、兵隊さんにおんぶされ逃げているなら
『兵隊さんは、無理矢理にフィニアをおんぶした→しつづけている』という可能性もあります。
その兵隊さんの、
【兵隊さん】
「おれも元々牧童だった。だからわかる!けどっ―― 死んじまったら、明日の飯の心配さえもできなくなる!」
は、どのような声で発せられるのでしょうか。
兵隊さんの言葉を引き出したのは、その前のフィニアの
///
【フィニア】
「けどぉ」
///
という未練たっぷりな言葉です。
グズっているかもしれません。
兵隊は危機的状況をこの場の誰よりもよく理解していて、焦っています。
それでも。やはり。
背負ってクズっている小さな子にむかって、どなりつけるようなことがしないのではないでしょうか?
なぜって彼は、姉妹のために踏みとどまって絶望的な応戦をするような男なのですから。
ならば、
///
【兵隊さん】
「おれも元々牧童だった。だからわかる!けどっ―― 死んじまったら、明日の飯の心配さえもできなくなる!」
///
の「!」は、大声ではなく、きっと、痛切な――けれども声は背負っている小さな子に届けばいいという大きさの、
『わかってくれ』という願いのこもった言葉です。
それをうけてのフィニアは、きっと理解をしきれません。
なにか大事なことをいわれているのはなんとなくわかって、
だけれど意味はわからなくって、
大事な(友達であるかもしれない)羊とはぐんぐん離れて――
そうしてでてくる、
『おねえちゃん、たすけて』
の、きっと
///
【フィニア】
「タリアおねえちゃん」
///
なのだと思われます。
それはぽつっと、こころぼそげにつぶやかれるかもしれませんし、
はっきりと、すがる調子の泣きつきなのかもしれません。
けど、そのどちらであるにせよ、姉たるタリアは
///
【タリア】
「はぁっ――はぁっ――フィニ、ア――いい、からっ」
///
の
「いいから」
を。
『(もう心配しなくて)いいから(大丈夫だから) 』
のトーンで話すのではないかと想像できます。
そしてそのトーンであれば、
タリアの次の台詞
///
t_002
【タリア】
「羊、の――こと――ならっ――」
///
にも、自然とつながっていくはずです。
■ ここまでのまとめ ■
さて、ここまで読んでいただいた上で、もう一度
///
t_001
【タリア】
「はぁっ――はぁっ――フィニ、ア――いい、からっ」
///
を声に出していただいたとして。
その「いいから」は、
一番最初に読んでもらった「いいから」は、
きっと違っているのではないか思います。
その違いを産んだものは、
1:<キャラクター同士の距離感と、その変化との把握>
2:<キャラクターの行動と、それをとりまく描写の確認>
3:<あなたのキャラクターの台詞の、
『前の台詞』と『後の台詞』(および、それらにつながる台詞と、つながっていく台詞)の把握>
です。
……仮に、あなたのお芝居に、プレイヤーさんが「ん???」となってしまうことがあれば、
その原因は、『あなたのお芝居が、プレイヤーさんの想定するものからズレてしまったから』となります。
そうして、完成形のゲームをプレイするプレイヤーさんは、
「絵や、BGMや、他の演者さんの台詞や、効果音や、スクリプトによる演出」といった圧倒的なサポートをうけることにより、
『ものすごく高い読解力で、ゲームを楽しみ、あなたの台詞に期待する』のです。
しかし、そうした『絵や、BGMや、他の演者さんの台詞や、効果音や、スクリプトによる演出』は全て、
あなたが今手にしている台本――シナリオをベースにつくりだされたものでもあります。
ですのでシナリオには、原則的には、あなたの演技に必要な全てが書かれているはずです。
それを効率よくよみとるための助けになるのが、
1:<キャラクター同士の距離感と、その変化との把握>
2:<キャラクターの行動と、それをとりまく描写の確認>
3:<あなたのキャラクターの台詞の、
『前の台詞』と『後の台詞』(および、それらにつながる台詞と、つながっていく台詞)の把握>
ではないかと、わたくしは想像します。
十分に準備する時間がないなら、最低限『3』だけはチェックしてほしいです。
あなたの台詞と、あなたの台詞の前後の台詞。
それがきちんとつながるのであれば、ものがたりが壊れることはないのではないかと思います。
そのうえで少し余裕があるなら「1」にも注目してみてください。
距離感に対して適切な言葉の強さをえらべるのなら、あなたのキャラクターは空気を読める、大人らしさを示し、
相手は状況にかかわらず自分の強さで言葉を発するのなら、あなたのキャタクターは空気をよまない、子供らしさを示します。
そして「2」。行動とそれをとりまく描写の意味を読み取れたなら、あなたはあなたのキャラクターの、
『こころの動き』を把握してくれるであろうと思えます。
そこまで読み取っていただけるなら、本当に、シナリオライター冥利につきます。
ありがとうと言わせていただく他にないです。
■ 読み取れないよ!!! という場合 ■
シナリオライターが立ち会っているなら、その人に聞くのが一番の早道です。
収録の前でも、収録中でも「ここってどういう意味ですか?」と質問したなら、
きっと彼なり彼女なりは大喜びして、
「そこまではきいてないよー」というとこまでを、微に入り細にいり語ってくれます。
シナリオライターが不在の場合は、
レコーディングディレクターさんや、メーカーの立会の人間にきいてください。
レコーディングディウクターさんは無数の台本たちに触れてきた経験と読解力が、
メーカーの立会の人間には、その作品に対するあなたよりも深い理解が、期待できます。
きっと、あなたの解釈を大きく助けてくれるはずです。
■ 現場では、全員がきっとあなたの味方 ■
シナリオライターが立ち会っているとき、彼なり彼女なりは100%あなたの味方の筈です。
彼は、自分のキャラクターに声が、魂がふきこまれることをとても楽しみにしています。
自分のキャラクターが、あなたの声によって命をうけとり、
自分が書いたシナリオ以上のものがたりを紡いでくれる――
これほど幸せなことがなかなかございませんので、
その幸せを甘受するため、できる努力は惜しみません。
レコーディングディレクターさんや、メーカーの立会の方も、必ずあなたの味方です。
「あのスタジオで収録するとこの出来」
「あのメーカーの作品はこんなもの」
とプレイヤーさんに思われてしまっては、たまりません。
ですので、あなたの解釈を助け、あなたのキャラクターをより魅力的にするために、
やはり、シナリオライター同様の――そしておそらくシナリオライターより広い視野からの――
的確なアドバイスをくれる筈です。
ダメ出しも、
「そこでのヒロインは、悲しむじゃなくて、あきれているかと思います」
的なリクエストも、すべてそうした切実な理由から発せられるものかと思います。
「あなたを攻めているわけではなく、あなたを否定しているわけでもなく、
食い違ってる部分を埋めて、あなたと一緒に、よりよいものを作りたがってるから」
だということを、どうか理解していただけましたら嬉しいです。
■ おわりに ■
絵も、音楽も、効果音も、スクリプト演出もなにもなく。
そこには物語だけがあります。
しかもその物語は、何度も何度も書いて直して直して書いて――
完全に記憶してしまい、いまとなっては、面白いんだか面白くないんだかを
自己評価することさえできなくなった、そんな物語です。
けれど、そこに声が加わり。
キャラクターに命が吹き込まれ。
そうして、渇ききっていた物語がみずみずしさを取り戻し――
「ああ、わたくしはこんな素敵なものがたりを、言葉をつむげていたんだ」
と、感動させえいただいたことが、わたくしには幾度もあります。
声でのお芝居には、その力がある。
それほど素敵なものであると、わたくしは知っています。
その恩返しを、残念ながらわたくしにはできません。
わたくしにその素晴らしさを教えてくださった演者さんたちは、
わたくしがここに書いたようなことをとっくに理解し、
通り過ぎ、だからこそそうしらお芝居をくださっているからです。
ので、わたくしは、これからそうした演技をきっとしていくあなたに、
この文章をお届けできればと願います。
この文章が、あなたの台本解釈を少しでもたすけ、
あるいは反面教師となり、よりよいお芝居につながることを、願います。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
2018/03/21 進行豹 拝